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2009年11月 8日 (日)

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僕は自転車に乗っていた。週末の晴れた午後。調布駅から三鷹市内へ向けて北へ走っていた。

2人の野球少年とすれ違った。ユニフォーム姿の背中にはバットケースを背負い、ヘルメットをかぶって立ち漕ぎをしていた。

次にキリンが僕を追い抜いていった。のそのそと歩くイメージのあるキリンだが、実は走るとめちゃくちゃ速い。本当かどうか知らないが、時速50kmで走ることができるらしい。自動車と並走しているのだから確かなのだろう。

やがて赤信号に引っ掛かった。先ほどのキリンも引っ掛かっていた。キリンが言った。「あなたの自転車、キコキコ言ってるじゃない」

僕は言った。「うっせぇ」そこで信号が青になった。僕は3段ギアの一番軽いギアに入れて飛び出した。キリンは遅れた。脚が長いせいで加速が遅いのだ。

キリンが追いつく前に、僕は横道に入った。

そこにはワニが僕を待っていた。「お前を待っていた」とワニは言った。「そうか、待たせてすまん」と僕は言った。

「いや、それは気にすることはない」

「ただ、道を教えてくれ」とワニは言った。

僕はワニの額に貼られていた紙に目をやり、目的地の歯医者を教えてやった。そこは僕の同級生の父親がやっている歯医者だ。「院長によろしく」と僕は言った。

「ところで、僕を待っていたんじゃないのかい?」

「いや、ただ、道を教えて欲しかっただけなんだ」

ワニは腹をアスファルトに擦りつけながらよちよちと歩いていった。

僕はそこから少し自転車を漕ぎ、目に付いた定食屋に入った。汚い紺色の暖簾のかかった古臭い定職屋だ。客はいなかった。カウンターがあり、その中に店主がいた。ゴキブリだった。ただゴキブリにしては大きい。体長は人間と同じくらい。ただし形は普通のゴキブリと同じだから、人間よりも一回り大きく見える。ねじり鉢巻をしていた。

「いらっしゃい。適当に座ってよ」とゴキブリは言った。「どうも」と僕は言った。

できるだけカウンターから離れた4人掛けの席に座り、メニューを手に取った。いたって普通のメニューだ。カツ丼とかカレーとか刺身定食とか、定食屋の定番メニューばかりがそこには並んでいた。

僕はゴキブリを呼び、刺身定食を頼んだ。ゴキブリはここでやっと、水をテーブルに持ってきた。

「刺身定食ですね。少々お待ちください」とゴキブリは言ってカウンターの中へ戻っていった。

僕は店内を見渡した。マンガもなければテレビもなかった。ただ、悪くなかった。店のテーブルとかイスは、見るからに年季が入っていたがちゃんと手入れがされていて清潔だったし、メニューのデザインもセンスが良かった。ただ、料理が出来るまでやることがなかったので、窓から見えたウサギと鷹の大喧嘩を眺めていた。ウサギが押していた。

やがて店主がカウンター脇の出入り口から姿を現し、四角い盆に載った料理を運んできた。

「おまちどおさまでした。刺身定食です」

「ありがとうございます」と僕は言って、割り箸を割った。

刺身定食はなかなか美味しかった。冷凍っぽさもなければ、生臭くもなく、ご飯も水気がちょうど良かった。

「ごちそうさまでした」と言って、僕は席を立った。レジのところまでゴキブリが出てきて、僕は千円札を1枚出した。お釣りの680円を受け取って、僕は「美味しかったです。ここって、いつからやってるんですか?僕この辺が地元なんですけど、今まで知らなかったですよ」と言った。

「3億年ほど前から」とゴキブリは言った。

僕は店を出て、停めておいた自転車に跨った。上空を見上げると、1羽の大きな鳥がぐんぐんと上空へ飛んでいくのが見えた。「キィー!」という奇妙な鳴き声をしていた。悔しい、と僕には聞こえた。

僕はそのまま病院へ戻り、いつものベッドに入った。

 

 

嘘だ。

 

 

ではまた。

 

 

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