垣根涼介『真夏の島に咲く花は』
を読みました。
かなり面白かったです。
南の島国フィジーを舞台にした小説で、フィジー人と日本人、インド人、中国人の若者たちがとある暴動を一つのきっかけに民族問題に揺れる物語でした。
陽気でビジネスに向かないフィジー人。
勤勉な日本人と中国人。
人口を増やし、フィジーにおける地位をますます高めていくインド人。
日本にいるとほとんど日本人としか接しないのであまり民族問題を感じることはありませんが、色々な国や地域の出身者たちが集まる国では様々な差別や嫉妬があるのだなと思いました。
それに、それぞれの人種には向き不向きがあり、それは時に差別の対象になったり搾取の対象になってしまいますが、本当はお互いが尊重し合い、特徴を活かした生き方ができればいいのだと思いました。
でもそんなのは理想論なのだとも思います。
たとえば資本主義のもとではやはり難しい。ビジネスが上手い人にビジネスが下手な人は簡単に負け、職を失う。努力すればいい、などと言うのは簡単ですが、国に根付いた国民性とか文化とか習慣というのはそんな簡単に越えられないものなのだと思います。徐々に変えることはできても、根本的に変えるのには膨大な時間がかかります。
だから僕は思うのです。
国際化なんて、やっぱりやめといた方がいいんじゃないかって。
自分の国の考え方を他の国に押し付けて、それで相手の国が豊かになったとか喜んだところで、それは一方の価値観に基づいた豊かさであって、一方的自己満足に過ぎない気がします。
何が豊かさなのか。
何が幸せなのか。
それを押し付けることなんて、誰にもできないはずです。そうあるべきです。
この小説はそういったことを考えさせてくれる、とてもいい小説だと思いました。
是非紹介したいところがたくさんあるので、雑に羅列します。
良昭もサティーも日本人、インド人という人種の違いはあれ、広い意味では文明圏共通の価値観を持つ人間として一括りにされる。勤勉であること、約束を守ること、お互いに助け合うこと、などなどを美徳として捉える価値観だ。
(中略)
しかし最近になって、ようやく分かってきた。
それらの約束事は文明圏共通の美徳ではあっても、人類共通の美徳ではない。
勤勉であること。約束を守ること。お互いを助け合うこと。それらの根底にある思想は、飢えへの恐怖だ。飢えを知るからこそ、勤勉さと相互扶助の精神が尊ばれ、さらにその関心が効率的な生産活動や食料備蓄という側面にまで高まってきたとき、重要な約束事や貨幣経済が生まれる。
つまり、これらの美徳は、飢えへの回避という要因から発した後天的なものに過ぎない。
だが、働かなくても道を歩けば食べ物はいくらでも転がっている社会では、勤勉さや約束遵守の精神はそれほど求められない。
自分たちが物心ついたときから人類共通の美徳として信じきってきた価値観など、それだけのものに過ぎないのだと感じた。
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どうして空を見ることが好きなの。先生は聞いてきた。
分かりません、とチョネは答えた。またみんなが笑った。妙に悲しかった。
自分が好きなことを笑われるのは悲しいものだということを、そのとき初めて感じた。
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今を犠牲にして将来を取るのか。それとも今を楽しんで、将来は貧乏でもいいと覚悟を決めるのか。そもそも、そんな後か先かでの人生の損得を考えること自体、おかしいことなんじゃないだろうか。
生きることは、損得勘定ではないんじゃないかな。
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彼はこう言った。
楽園は、周りの人間と作り上げていくものだよ。場所なんかじゃない。そしてその人間関係がもたらす心の風景だ、と。
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「お金。お金がすべてなんだよ、今は」ラトゥは言った。「大昔はそんなもの必要なかった。お金がなくても、みんな楽しそうに生きていた。わしが子どもだった五十年前は、まだそうだった。テレビがなくても、みんなで砂浜に出ていろんな話をした。ラジカセやCDデッキがなくても、みんなで歌を唄えばよかった。クルマやバスがなくても、そのぶん時間をかけて歩いていけばいいだけの話だった。お金がなくても、みんな幸せだった。でも今は違う。みんな、お金に心を縛られている。いつの間にかそんな世の中になったよ。(後略)」
~垣根涼介『真夏の島に咲く花は』より~
僕たちはもっと焦点を近くのものに合わせる必要があるんじゃないかと思います。
隣の人の幸せを願い、今の自分の幸せを願う。
今の自分を認め、隣の人を認める。
僕にはどうしても、10年後の自分を想像することが大事なことのようには思えません。隣の不幸を無視して外国の不幸を助ける気にはなれません。
だから真面目に成長していこうとする会社にいると、たまに酷く疲れます。
なんで最後会社の話になってしまったのでしょう。
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真夏の島に咲く花は (講談社文庫) 著者:垣根 涼介 |
それにしても垣根涼介はいい作家です。僕はすっかりファンになってしまいました。大体2つくらいずきゅんとくる作品があれば、僕はファンになります。『ワイルド・ソウル』と『真夏の島に咲く花は』で、僕はすっかりはまってしまいました。
とりあえず垣根涼介全作品読破します。
ではまた。
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コメント
>TKさん
コメントありがとうございます。
本きっかけでフィジーに行ったんですね!すごい行動力・・・!
本に書いてある通りか~。それは僕も興味出てきました。
いつか僕も行ってみたいです。フィジー。
投稿: 上杉健太 | 2011年10月22日 (土) 09時20分
自分はこの本を読んで どうしてもフィジーに行きたくなったので、1週間ホームステイしてきました。
本当に本に書いてあるとおり、この上なく気さくな人ばかりでした。(そして時間にルーズ…)
たった1週間だったので、文化に深く入り込むことはできなかったですが、とにかく楽しかったし勉強になりました。
この本自体は勿論のこと、フィジーはオススメです。
投稿: TK | 2011年10月13日 (木) 23時23分