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2010年12月12日 (日)

履き違えポリス

「はいはいはい、ちょっと止まって~」

 

お巡りさんが自転車で走る僕を止めた。

しかし僕は止まらない。聞こえていないからだ。イヤホンで耳の穴を完全に塞ぎ、そこから大音量の音楽を垂れ流してる僕に、お巡りさんの声は届かない。

それに気づいたお巡りさんは自転車を漕ぐ足に力を込めて僕の横に並び、僕の視界に入ってから再び僕を止めた。さすがに僕も気づき、大人しくブレーキをかけて静止した。

 

「ライト付いてないよね」とお巡りさんは言った。

「はい?」と僕は言った。まだイヤホンを付けたまだだった。

お巡りさんは懐中電灯を手に持ち、自転車を降りた。そして僕の顔に懐中電灯の光を当て、「ライト、ライト」と言った。

僕は眩しさのあまり顔を背けた。この夜中に突然目に直接ライトを当てられたのだ。しばらくは目が機能しないだろう。

ところがお巡りさんはお構い無しに僕の自転車のハンドルをとり、揺らした。「降りろ」ということなんだと思う。そう思ったわけではなかったが、僕は無意識に自転車を降りた。目はまだ見えない。

お巡りさんはそんな僕を横目に、防犯登録の番号を調べ始めた。無線を使って何か喋っている。

「名前は?」

徐々に目が機能を取り戻してきた僕はそんな問いかけを無視してお巡りさんに言った。

「ねぇお巡りさん。教えてほしいことがあるんだ。どうしてライトを付けなきゃいけないんだい?」

お巡りさんはふんっと一度鼻で笑ってから言った。

「あのね、法律で決まってるんだよ。夜間はライトを付けなければならないってね。罰則もちゃんと決められてる。君が知らないだけでね、世の中にはたくさんのルールがあって、それを知っていても知らなくても、それには関係なく、ルールを犯した者には罰があるんだよ」

お巡りさんは言いながらも作業をやめなかった。といっても僕は名前を答えていなかったからお巡りさんの作業は進むはずがなかった。たぶん、作業をしながら答えることで自分の言っていることが実に当たり前で常識的で疑う余地のないものだということにしたかったんだろう。

「お巡りさん。不正解だよ」と僕は言った。

お巡りさんが手を止めて僕を見た。ライトは向けてこなかったから、僕はお巡りさんと目を合わせることができた。

「法律だとかルールで決められてるから、それを守らなければならないなんてのは、何の説明にもなってないよ。法律やルールは何でつくられるんだ?それが守るべきものだからだ。少なくとも、作った人はそう考えたからだ。ところが法律やルールってのはきまっていつの間にか知らないところで出来上がっていて、勝手に押し付けられている。なぜそれが出来たのかなんて、僕たち庶民には伝えられないんだ。だから僕は聞いてみたんだ。『なぜライトを付けなければならないの』ってさ。それはつまり、ライトを付けなければならないというルールはなぜ作られたのか、というものだったんだよ。なのにお巡りさんから返ってきた言葉はこうだ。『ルールがあるから』。溢れんばかりのしたり顔でね」

と僕はここで一度言葉を切った。この言い分は、実に卑怯だと思ったからだ。お巡りさんの態度があまりにも気に入らず、怒りに任せて一息で思うがままに言ってしまったにすぎない発言だった。なのに、「お巡りさん、あなたは頭が悪いですね」と言わんばかりの内容だった。

「お巡りさん」と僕は改めて話を展開させた。

「そんなことはどうでもよくて、僕はね、お巡りさんにもっとカッコイイ答えを期待したんだよ。法律とかルールで決まってるとかそんなんじゃなくてね、一言『危ないから』と言って欲しかったんだ。僕だって好き好んでライトを消しているわけじゃないんだ。これはね、電池がさっき切れただけなんだよ。僕のは単三電池4つで付くライトだからね。お巡りさんの仕事はわかるよ。犯罪を取り締まるのは大事なことだよ。でもね、それを目的化するのって、何か違うんじゃないかな。僕はさ、お巡りさんの仕事は地域の平和を守ることであって欲しいと思うんだ。犯罪を取り締まるじゃなくてね。もちろん、平和を守るという目的のための手段として、犯罪を取り締まるはあって然るべきだと思うし、そこは是非お願いしたいところだよ。でもさ、犯罪を取り締まるために『犯罪はね゛ぇが~?』とか言って、まるでなまはげみたいに市民をギラギラした目で睨みつけてさ、何か目的が違うんじゃないかと思うんだよ。もっとさ、困ってる人を探すべきなんじゃないのかな?そこに犯罪があるならお巡りさんの出番だよ。なのに僕から見えるお巡りさんたちの行動や態度はさ、とてもじゃないけど困ってる人のためにあるものじゃないんだよね。そこへきてお巡りさんの答えだよ。あぁやっぱりなって僕が思うのも仕方ないと思わない?ねぇ、お巡りさん」

お巡りさんはずっと下を向いていたが、僕がいい終わると顔を上げ、「思わない」と言った。

 

 

 

 

 

 

 

嘘だ。

全部妄想だ。

 

でも、お巡りさんが何か木刀みたいなのを地面に突き刺すようにして交番の前に仁王立ちし、市民に向けて睨みをきかせてるのを見る度、違う、と思うんだよね、僕は。

 

 

ではまた。

 

 

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