「ちょっと表出ろ」というのは現実にあるセリフなのだ
何だか面白いことがあった。
面白いというのは、笑えるとかそういうことではなく、滅多にないという意味でのことだ。
今日は西荻窪で飲んでいた。
そこのバーは、店主がとても面白く、ついついたくさんビールを飲んだ。
その次に行った店では、もう飲まなくても後は潰れていくのを待つのみという具合で、一人は完全に潰れた。僕は潰れはしなかったけど、前以てトイレで意識的にゲロを吐いていた。
そんな飲み会の帰りだった。
我が地元三鷹駅に帰り着くと、僕はどうしても水が飲みたくなった。
だからコンビニに入った。
コンビニに入り、レジの前を横切ってペットボトルの飲み物が陳列している棚のところへ行き、水を手に取ってレジに行くと、男が僕に近づいてきた。
「おい、人にぶつかっといて舌打ちしてんじゃねーよ」
男は言った。
僕は正直、あまり記憶がなかった。誰かにぶつかった気もするし、そいつが女といちゃいちゃしてる最中に俺にぶつかったから舌打ちをしたという気もする。あるいは、誰にもぶつかっていないような気もしていた。
だからとりあえず、
「うん。何言ってるのかわからない」
と言った。
ちなみに、ここから書く内容は、あくまで酔っぱらいの僕の30分前の記憶に基づくものである。僕は極めて忠実に再現をしているつもりだが、酔っぱらいという前提を忘れて欲しくない。
「当たったんだよ!ちょっと表出ろよ」
「あぁ、はいはい」
コンビニの外に出た。今思えば、店員さんはどんな気分だっただろう。少なくとも、いい気分はしないだろうな、いや、「やれ!やれ!」とか思ってたんだろうか。確かに、一向に止めに入りはしなかった。
男はまた繰り返した。
「お前、人に当たっといて謝らないのかよ!」
どうやら男は、謝って欲しいようだった。わざわざヤクザみたいな言葉づかいで絡んどいて、要求は謝罪だ。
「うーん、でも当たった記憶もなければ、舌打ちした記憶もないんだよね。それは俺が酔っぱらってるせいかもしれないけど」
「いや、当たったんだよ、俺の右肩と俺の右肩が!」
「あ、そうなの?俺の右肩とあんたの右肩が?こんな感じで?」
僕は男の右肩に僕の右肩をぶつけてみた。
「そうだよ!それでお前は舌打ちしてったんじゃねーか!謝れよ!」
どうやら男の中で舌打ちというのは、どうしても許せない事象の一つのようだった。確かに、舌打ちを特定に個人に向けて行ったとしたら、それなりに悪意を感じる。
「そうか。俺の右肩とあんたの右肩がぶつかったのか。どこでだ?」
「レジの前だよ!」
「レジの前か。レジは入口から見て左側にあるな。俺が覚えてるのは、あんたが女とレジで会計をしていたことだ。俺はその後ろを通り過ぎようとした。もし当たるなら、俺の左肩とあんたの左肩、もしくは、俺の左肩前方とあんたの右肩後方なんじゃないのか」
「それはちゃんと覚えてねぇよ」
「覚えてないのか。おい、覚えてないのかよ。じゃあ俺とあんたは対等だな。記憶が曖昧な同士だ」
「うるせぇよ。マジ、謝らないなら殴らせろ」
「あぁ・・・そいうことね。まぁいいよ。そんなに許せないなら、面倒くさいから殴りなよ。ただ、ちゃんと覚悟しないとダメだよ。覚悟しないで、つまりはノーリスクで人を殴るなんて、あってはならないことだからね」
「じゃあ殴るからな!」
まぁ分かるよね。彼はドラマみたいに殴る振りをして、結局殴らなかった。
あぁ、こういうことって本当にあるんだって、僕は思ったよ。本当に、冗談抜きで、彼は殴る振りをしたんだ。リプレイがあったら見たい。
「・・・殴ったら警察行くんだろ?」
と、殴る振りをした後に男は言った。
「うーん、そうなると傷害罪になるだろうからね~」
「でもお前が当たってきたんだろうが」
「うーん、あんたはさっきから俺が当たったって言ってるけど、何それ?俺があんたに当たったの?俺“と”あんたが当たったんじゃないの?もし謝るならさ、同時に謝ろうよ」
「いや、お前が当たったんだよ!」
「だから、それは何を以て言ってるの?まぁ確かに俺が酔っぱらって覚えてないのは悪いと思うよ。でもあんたがそんなに必死になる理由がよくわからない」
「じゃあいいよ。警察行こう」
「うん・・・じゃあいいよ。行ってどうなるものとは思わないけどね。『お巡りさん!こいつが俺の肩にぶつかって、舌打ちしたんです!』って?」
そうして男は僕を伴って交番に向けて歩き始めた。
といっても、ほんの5メートルほど歩いたところで、彼が立ち止まった。
「お前本当に覚えてないの?」
「だから、俺は酔っぱらってるし、覚えてないよ。当たった記憶もなければ、舌打ちした記憶もない。だから警察に行って判断してもらいたいんでしょ?あんたは」
「・・・もういいよ。さっき謝ってくれたし」
「謝った?あぁ、記憶がないことについてね。確かに、俺はあんたにぶつかった記憶もなければ、スペースシャトルで地球を1周した記憶もないし、地面を掘り進んでブラジルに到達した記憶もないよ」
「もういいよ。水買ってこいよ」
あぁやっと解放されたと思い、僕はずっとレジに放置されていた水の会計をしてもらった。
てっきり店を出ると続きが待っていると思いイヤホンを外した僕だったが、辺りを見渡しても彼はいなかった。
ちょっと周りを探してみたのだが、やはりいなかった。
まぁよく考えれば、彼には連れの女がいた。そこでそもそも誰かに喧嘩を売って謝罪を要求し、残った結果としては殴る振りをしただけってのは、あまりにも不細工だった。早くその場を立ち去るというのは正解だったのかもしれない。
でも僕は、念のためイヤホンをせずに自分の自転車が置いてある駐輪場まで歩いた。奇襲には備えなければならないからね。
でも奇襲はなかった。無事に家に帰り着いた。
そういう話。
酔っぱらった時は何かいろんなことに注意だよ。
ぶつかったのが怖いお兄さんじゃなくてよかった。
ではまた。
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